非著作物への「引用」

このエントリをはてなブックマークに登録 Yahoo!ブックマークに登録 この記事をGoogleブックマーク Deliciousにブックマーク このエントリをlivedoorクリップに登録

著作物の引用

1980年3月28日

事件番号

平成 6年 (ワ) 18591号

要約

美術展で、複製する入場券(非著作物)に絵画を、複製掲載する行為は引用とは認められなかった

一 被告は、別紙第二目録記載の書籍を印刷、製本及び頒布してはならない。
二 被告は、その所有する別紙第一目録記載の絵画を撮影したフィルム、右絵画の印刷用原版及び別紙第二目録記載の書籍を廃棄せよ。
三 被告は、原告に対し、金一〇〇九万円及びこれに対する平成六年一〇月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
四 原告のその余の請求を棄却する。
五 訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。
六 この判決は、原告勝訴の部分に限り仮に執行することができる。
事実及び理由

当事者の求めた裁判
一 請求の趣旨1 主文第一項、第二項同旨2 被告は、原告に対し、金二一四六万三五二〇円及びこれに対する平成六年一〇月一五日から支払済みに至るまで年五分の割合による金員を支払え。
3 訴訟費用は被告の負担とする。
4 仮執行宣言二 請求の趣旨に対する答弁1 原告の請求をいずれも棄却する。
2 訴訟費用は原告の負担とする。
当事者の主張
一 請求原因1 原告の権限(一) スペイン人の画家【A】(以下単に「【A】」ともいう。)は、別紙第一目録記載の絵画(以下、同目録記載の絵画すべてをあわせて「本件絵画」といい、
同目録一ないし七記載の個々の絵画を「本件絵画一ないし七」という。)を、同目録の制作年欄記載の年に著作した。
(二) 【A】が一九七三年四月八日に死亡したことにより、同人の子である原告、【B】、【C】及び【D】が、本件絵画の著作権を相続し、【D】が一九七五年六月五日死亡したことにより、同人の子である【E】及び【F】が、【D】が有していた本件絵画の著作権を相続した。
(三) 原告と右四名は、【A】の本件絵画の著作権を不分割共同所有し、その収益は各人に等しく分配されるところ、原告は、右不分割所有者の管理者として、フランス民法一八七三ー6条の規定に従い不分割共同所有者を代表する権限を有する。
2 被告の行為(一) 被告は、平成六年一月二二日から同年四月三日まで、国立西洋美術館において、「バーンズ・コレクション展」(以下「本件展覧会」という。)を国立西洋美術館と共同で主催した。
(二) 被告は、本件展覧会の開催にともない、本件絵画を複製掲載した別紙第二目録記載の書籍(以下「本件書籍」という。)を製作し、定価二〇〇〇円で、少なくとも五〇万部販売した。
(三) 被告は、本件絵画三を、本件展覧会の入場券及び割引引換券に複製掲載した。
(四) 被告は、本件絵画二を平成五年一一月五日付け讀賣新聞に、本件絵画三を平成四年一二月二日付け、平成五年一一月三日付け及び平成六年一月二二日付け各同新聞に、本件絵画四を平成六年一月一日付け同新聞に、それぞれ複製掲載した。
(五) 被告は、プリントをキャンバスに貼りつけ表面加工をし額装を施した本件絵画三の複製画(以下「本件複製画」という。)を製作し、定価一五万円のものについて五点、定価四万五〇〇〇円のものについて一五点販売した。
3 原告の損害(一) 原告は、前記2(二)の行為により、その売上代金総額一〇億円に通常の使用料率である一〇パーセントを乗じた額に、本件書籍中に本件絵画の占める割合である八〇分の七(八〇は、本件書籍に複製掲載された絵画の総数、七は、本件絵画の複製画の数)を乗じた金額である通常使用料相当額八七五万円の損害を被った。
フランスにおいては、カタログに絵画を複製掲載する場合、書籍と同率の著作権使用料率である定価の一〇パーセントが徴されるから、本件でもこれに従うべきである。
(二) 原告は、前記2(三)及び(四)の行為により、本件展覧会の入場料総額の一パーセントに相当する損害を被ったというべきところ、本件展覧会の入場者総数は一〇七万一三五二人であり、入場料は一般一五〇〇円、高校生、大学生が一一〇〇円、小学生、中学生が五〇〇円であり、割引入場券により入場した人は一〇〇〇円に割引されたことを考慮すると、平均入場料は一〇〇〇円が相当であり、入場料総額は一〇億七一三五万二〇〇〇円を下らないから、原告が右被告の行為により被った損害額は一〇七一万三五二〇円である。
本件作品は、本件展覧会の宣伝のみならず、被告の記念事業としての宣伝にも使用されたものである。また、バーンズコレクションは印象派画家の作品コレクションであるのに、被告が印象派でない【A】の作品を広告宣伝に利用したことは、
【A】の作品が本件展覧会のいわば看板作品であったことを示す。このような場合の通常使用料は、少なくとも入場料収入の一パーセント相当額である。
(三) 原告は、前記2(五)の行為により二〇〇万円を下らない損害を被った。
このような行為は極めて悪質であり、贋作の作成販売と同視すべきであるところ、かかる場合には通常二〇〇万円を損害金として徴する。また、【A】が本件絵画を制作するのに要する知的労力や費用を金銭的に評価したものである本件絵画の値段を損害と考えるべきであるから、これが二〇〇万円を超えるのは明らかである。
4 結論 よっては、原告は、被告に対し、本件絵画の著作権(複製権)に基づき、本件書籍の印刷、製本及び頒布の禁止、本件絵画の撮影フィルムと印刷用原版、及び本件書籍の廃棄、並びに損害賠償として金二一四六万三五二〇円及びこれに対する不法行為後である平成六年一〇月一五日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。
二 請求原因に対する認否1 請求原因1の事実は知らない。
2 同2の(一)の事実は認める。
同2の(二)の事実のうち、被告が本件展覧会の開催にともない、本件書籍を製作、販売したことは認めるが、その余は否認する。本件書籍の実販売部数は約四七万六〇〇〇部であり、販売総額は約九億五〇〇〇万円である。
同2の(三)ないし(五)の事実は認める。
3 同3は全て争う。同3の(二)のうち、有料入場者数は、約九五万人である。
本件書籍は、通常の書籍と異なり、発売期間は展示期間だけであり、発売場所も展示場に限られるから、経費を回収し利益を上げることが困難である。
日本において海外の画家の著作権保護に当たっている美術著作権協会がカタログへの絵画収録について定める算定方式では、対価は、カタログの定価や発行部数に無関係である。この算定方式は、美術著作権協会で一般的に適用しているものであり、一般のカタログ発行者もこれにしたがっているものと推察され、事実たる慣習になっている。したがって、本件でもこの算定方式によるべきであり、その額は一七万八五〇〇円を超えない。
本件複製画については、被告は、本件展覧会場で販売する数十点の商品に【A】の絵画を複製することについて、美術著作権協会を通じて著作権者から許諾を得たものであり、本件複製画についてもこの一環として許諾を得たと考えたが、問題があり得るとの指摘を受けて、本件展覧会開始後すぐにその製造販売を中止した。製造、販売数量は二〇枚に過ぎない。このような場合の損害額が二〇〇万円に上ることはあり得ない。
三 抗弁1 権利喪失 原告は、本件絵画の著作権をSociete des Auteurs des Arts Visuels(SPADEM)に信託的に譲渡した。
2 解説又は紹介目的の小冊子(本件書籍について) 本件書籍は、著作権法47条にいう「小冊子」にあたるのであるから、本件絵画の複製行為は、著作権法上許された行為である。
3 引用による引用(入場券及び割引引換券について) 本件絵画三を、本件展覧会の入場券あるいは割引引換券に複製掲載する行為は、
公正な慣行に合致し、かつ、当該入場券あるいは割引引換券上に当該絵画を引用する目的、すなわち当該美術展覧会の内容を象徴的に示すという目的に照らし、正当な範囲の引用行為であるから、著作権法32条により許された行為である。
すなわち、入場券あるいは割引引換券は、それぞれ、その保持者が、対象となっている催し等に入場しあるいは割引価格で入場券を購入する権利を有することを表象するものである。このような美術展覧会の入場券あるいは割引引換券にその展覧会で展示されている代表的作品を収録することは、それにより当該展覧会にどのような作品が展示されているか示す目的を有するものであり、広く行われている慣行である。
また、このような入場券あるいは割引引換券は、極めて小さなものであり、これに絵画を複製掲載しても、独立に鑑賞し得るような程度の大きさになることはない。また、これらについては、保持者が長く保管することは考えにくい。
4 引用による利用及び時事の事件報道のための利用(新聞への掲載について) 美術展覧会の開催にあたり、その事実を報道する記事、及びそのコレクションないしその中の絵画の意味を探究する記事において、そのコレクションの一部を構成する絵画を新聞紙上で収録することは、著作権法32条所定の引用又は同法41条所定の報道の目的上正当な範囲内であり、かつ、これが広く行われていることからも明らかなとおり公正な慣行に合致する。
日刊新聞は、長く保存されることはあまりないものである。また、日刊新聞紙上の印刷は、カラー印刷が進んだ現在でも、単行本の美しさには及ばない。したがって、新聞記事を当該絵画の純粋な鑑賞目的のため長期にわたり用いることは考えられない。
無数の社会事象の中からいかなる情報を取りあげてどのように報じるかは、報道の自由に基づき各報道機関が自由に決することができるものである。多く報道がされたからといって、通常の新聞記事が広告宣伝に転化するものではない。
しかも、日本新聞協会が制定した「新聞広告倫理綱領細則」において明記されているとおり、新聞においては、通常の記事と広告とは截然と区別されており、読者もこれを十分承知しているから、本件展覧会の記事に接する読者も、これが広告ではなく、事実の報道や評論のために掲載されていることを容易に理解する。
本件絵画の新聞への掲載には本件展覧会の開始前にされたものもあるが、これらは、甲第八号証の「幻のバーンズコレクション日本へ」という大見出しに端的に示されているとおり、これまで門外不出であったバーンズ財団の絵画が初めて日本で公開されることになったことを報じるものである。新聞の重要な機能である事実の報道は、過去の出来事のみならず、これから予定されている出来事を報じることもある。
四 抗弁に対する認否及び反論1 抗弁1の事実は否認する。
原告は、SPADEMに【A】の著作権の管理を委託していたが、著作権は譲渡していない。【A】の著作物に対する著作権は、原告を含む五名の相続人により不分割共有されているところ、原告は管理者として管理権限を付与されたが、不分割共有持分の譲渡処分権限を付与されていない。なお、原告は、平成七年九月、SPADEMへの管理の委託を解除した。
2 抗弁2は争う。
3 抗弁3は争う。
被告主張のような慣行は存しない。そもそも、バーンズコレクションは、印象派の作品が中心のコレクションであるのに、【A】の本件絵画三を入場券及び割引引換券に複製掲載したのは、右絵画が有名であり、本件展覧会の宣伝になるからにすぎない。
4 抗弁4は争う。
平成五年二月六日から同年五月九日まで、上野の森美術館において、フジサンケイグループ等の主催で、「ニューヨーク近代美術館展」が開催された。これは、本件展覧会と同様の美術的意義を持つ。しかし、被告新聞に掲載されたこれについての報道記事は、本件展覧会に関するものに比べ、はるかに少ない。このような相違が示すように、被告は、本件展覧会が被告の一二〇周年記念事業であるため、その広告宣伝として、多数の記事・絵画の掲載を行ったものであり、本件絵画二ないし四の掲載が、広告宣伝目的のためされたことは明らかである。
また、請求原因2(三)の紙面への掲載のうち、平成六年一月二二日付紙面への本件絵画三の掲載を除く各掲載は、本件展覧会の開始前にされているから、これらの記事が、報道ではなく、本件展覧会の告知、即ち広告宣伝を目的とすることは明らかである。また、平成六年一月二二日付紙面への本件絵画三の掲載についても、
本件展覧会の開会を報じた記事とは別個の記事であるから、本件展覧会の広告宣伝にすぎない。
また、引用とは、本来学術論文について妥当するものであるから、被告の行為は引用にあたらない。

この判例全文を見る

注目バナー